「福音の実り方」(2019年7月14日 週報巻頭言 牧師 藤井秀一)

 わたしたちの教会から、西南学院神学部に送り出したT神学生は、大学生の頃、生きることがつらくて死ぬことばかり考えていたある日、街角でギデオン協会の人が配っていた聖書を受け取り、キリストの言葉と出会い、信じ救われた自らの経験を、何度か証してくださいました。しかし、まさか彼に聖書を手渡したその人は、その小さな行為が、彼の人生を大きく変えたことなど、知るよしもないでしょう。

 さてわたしが2015年まで仕えていた「酒田伝道所」の前任の民家正純牧師は、会社の経営者から献身し、60才を過ぎて東京バプテスト神学校で学び、青森の「三沢教会」「小松ヶ丘伝道所」そして最後に山形の「酒田伝道所」で仕えた人です。ご夫妻で酒田に移り住み、借家の牧師館で二人だけの礼拝が始まりましたが、民家牧師がおられた2年の間、教会の関係者が訪ねることはあっても、関係者以外の地元の人が日曜の礼拝に訪れたことは一度もありませんでした。それでも70代後半の民家牧師は、教会の案内チラシを配り続け、囲碁教室などを開くなど、地道に伝道を続けられました。わたしはそのころ東京の教会で牧師をしており、酒田の伝道所を支えるために、東京の教会から伝導隊を酒田に派遣するコーディネートの働きをしていました。

 そんなある日、民家牧師は癌がみつかり手術。娘さんがいる神戸で治療をすることになり、先生は酒田を離れることになりました。そしていろいろな出来事を経て、わたしは酒田の働きを引き継ぐことになりました。私が神戸で治療する民家牧師を訪ね「先生の働きを引き継ぎます。先生がまかれた福音の種は、きっと実ります」と申し上げると、抗がん剤で顔が真っ黒に変色していた先生は、ボロボロと涙を流されました。東京の教会を辞任し、いよいよ酒田に引っ越すことになったその週の日曜日の早朝、民家牧師は主のもとへと召されました。

 それから6年後の2012年のイースターの日。酒田の地元の男性が、イエス様を信じてバプテスマを受けました。伝道所の初めてのバプテスマ。民家牧師は、地上では福音の実りを見ることはできませんでしたが、きっと天で喜んでおられたと信じています。

「良い知らせを伝える者の足は、なんと美しいことか」と書いてある通りです。(ロ-マ10:15)

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